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東京高等裁判所 昭和58年(ネ)116号 判決 1984年7月16日

控訴人(被告)

有限会社五月屋

ほか一名

被控訴人(原告)

長林さかゑ

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人らは被控訴人に対し各自金八二七万七、四〇〇円及びこれに対する昭和五一年一一月七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、第二審を通じてこれを三分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人らの負担とする。

三  この判決は第一項1に限り仮に執行することができる。

事実

一  控訴代理人は「原判決中、控訴人らの敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次に付加するほか、原判決事実欄の「第二 当事者の主張」に記載のとおり(但し、原判決六丁表七行目に「この付添料」とあるのを「これ」と改める。)であるから、これを引用する。

(控訴人らの主張)

被控訴人が本件事故に遭遇することなく引き続き控訴会社で稼働したとした場合、昭和五〇年一二月から同五六年一一月までの間に被控訴人が得るであろう日当は合計六一三万四、一〇〇円である。一方、被控訴人は、右の期間中に労災年金(障害補償年金、障害特別年金)合計六六四万七、三三〇円、国民年金(障害年金)合計三三一万五、八〇七円の給付を受けている。つまり、被控訴人は、本件事故に遭遇しなかつた場合に比して、右収入と各年金との差額金三八二万九、〇三七円だけ利得しているわけであるから、右利得金は、まず、被控訴人の入院雑費、付添費、治療費、交通費、食費等の損害と、残余は慰謝料とそれぞれ損益相殺されるべきである。

(被控訴人の主張)

被控訴人が控訴人ら主張の各年金の給付を受けたことは認めるが、その余は争う。被控訴人の本件事故のときから昭和五五年三月末日までの得べかりし収入は金七九五万九、〇〇〇円であり、さらに、向う一〇年間の得べかりし収入は金二、一〇〇万一、五一二円である。

三 証拠に関する事項は、本件原審及び当審記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所は、被控訴人の本訴請求は、控訴人らに対しそれぞれ金八二七万七、四〇〇円及びこれに対する昭和五一年一一月七日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるからその範囲でこれを認容し、その余を棄却すべきであると判断するが、その理由は、次に付加・訂正するほかは、原判決理由説示(原判決六丁裏一行目冒頭から同一四丁裏一一行目末尾まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決六丁裏五行目の「第一、」のあとに「第」と、同七行目の「させて」のあとに「土木」とそれぞれ付け加え、同八行目に「ところ」とあるのを「際」と、同九行目に「ため」とあるのを「ので」と、同一〇行目から一一行目にかけて「自車を乗り上げさせて落下したため」とあるのを「車輪が乗り上げて落下し」と、同一一行目に「原告は、その衝撃で」とあるのを「その衝撃で、被控訴人は」とそれぞれ改め、同一二行目の「幅は」のあとに「狭く僅かに」と付け加え、同一三行目に「用水路で」とあるのを「用水路、」と、同七丁表一行目に「生えていたが」とあるのを「生えている田舎道であつたが」とそれぞれ改め、同丁表五行目の「ところ」のあとに「、車体の一部分が道路敷を外れて土堤の部分にはみ出し、雑草に埋もれていた」と付け加える。

2  同七丁表七行目冒頭から同丁裏五行目末尾までを次のとおり改める。

「右認定の事実によれば、本件事故現場付近においては、道路は狭い田舎道で、二台の車両が余裕をもつてすれ違えるほどの幅員はなかつたのであるから、本件加害車両の運転者たる控訴人林武としては、前方に対向車両を認めた時点からその進路、接近速度等、動静を注視し、予め減速、徐行しつつ道路左側一杯に進路をとつて進行すべきであつたところ、右控訴人がこれを怠り、対向車両に接近してから危険を感じて急にハンドルを左に切つたことが本件事故を惹き起こす原因となつたということができる。

したがつて、被控訴人に対し、控訴会社は本件加害車両の運行供用者として、控訴人林武は右過失による不法行為の加害者として、それぞれ、本件事故によつて生じた損害を賠償する義務があるものというべきである。」

3  同七丁裏七行目の「及び」のあとに「いずれも」と付け加え、同九丁裏四行目に「以上のとおり認めることができ」とあるのを「以上のとおり認められ」と、同一二行目に「あることとなる」とあるのを「ある」とそれぞれ改める。

4  同一〇丁表一行目の「及び」のあと及び同一一丁表四行目のあとに「いずれも」と付け加え、同一二丁裏一行目に「生れで」とあるのを「生まれ」と、同七行目の「であつたこと」から一二行目の「相当である。」までを次のとおりそれぞれ改める。

「であつたことが認められる。また、当審における被控訴人本人尋問の結果によれば、当審において被控訴人に対する嘱託尋問が行われた昭和五九年四月一三日現在においても、被控訴人の症状には前記三で認定の昭和五七年当時のそれに比して大きな変化は見られないが、最近では身の廻りのことや軽度の家事労働は行えるようになつていることが認められ、当審証人阿部利彦の証言とこれにより真正に成立したと認める乙第八号証、当審における被控訴会社代表者尋問の結果はいまだ右認定を覆すには足りず、ほかにこれを左右するに足る証拠はない。これらの事実に、前記三で認定の被控訴人の傷害の部位・程度及び治療経過、後遺症状の程度、被控訴人の年齢、被控訴人には高血圧症、動脈硬化等、いわゆる成人病の徴候が見られ、これが前記傷害の治療経過や後遺症状の程度にも何らかの影響を及ぼしているであろうことは否定できないこと、前記二で認定の本件事故の態様、とくに本件事故は加害車両の運転者である控訴人林武にとつて多分に不運な一面があることなど、諸般の事情に照らすと、入通院慰謝料は金二五〇万円、後遺障害慰謝料は金五〇〇万円とするのが相当である。」

5  同一三丁裏一三行目に「第四号証の一、二」とあるのを「第三号証の一、二及び原審証人長林文夫の証言の一部(後記認定にそうものに限り、これに反する部分は措信しない。)」と、同一四丁表一一行目に「認められるが、そうすれば」とあるのを「認められるところ、これからすれば」と、同一三行目に「損害からは」とあるのを「請求金額からはこれを」とそれぞれ改める。

6  同一四丁裏六行目に「八五〇万円」とあるのを「七五〇万円」と、同八行目に「金八五七万七、四〇〇円」とあるのを「金七五七万七、四〇〇円」とそれぞれ改め、同じ行のあとに行を変えて次のとおり付け加える。

「控訴人らは、その主張の労災年金等と右損害との間で損益相殺がされるべきである旨主張し、被控訴人が控訴人ら主張の労災年金等の給付を受けたことは当事者間に争いがないが、右労災年金等は、疾病、傷害等に起因して生じた身体的障害についての補償を目的としてその程度に応じて給付されるものであつて、これと右損害との間で損益相殺をするのは、右労災年金等の制度の趣旨に反し、許されないものというべきである。したがつて、控訴人らの右主張は採用できない。」

7  同一四丁裏一一行目の冒頭に「本件事故当時の現在価額で」と付け加え、同じ行に「認める」とあるのを「する」と改める。

二  したがつて、被控訴人の本訴請求は、控訴人らに対し、それぞれ、以上の損害金八二七万七、四〇〇円とこれに対する本件事故の後である昭和五一年一一月七日(訴状送達の日の翌日)から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるからその範囲でこれを認容し、その余を失当として棄却すべきであり、これと一部結論を異にする原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡垣學 大塚一郎 川崎和夫)

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